Sabitlenmiş Tweet

「2000字。」
男はそう告げた。
「……失礼。今、なんと?」
私は念の為、尋ねてみる。
「聞こえなかったのか? 2000……」
「本当に聞き直したかったわけじゃないんですよ! 2000字!? なにかの冗談ですか!?」
「冗談か、だと? ハンッ! 冗談ではないさ!」
彼がドカリ、と椅子に腰掛けると、影がかかって顔がよく見えなくなる。そういえば、この部屋の明かりは私の目の前にある机に置かれたランタンひとつだけである。こんな暗く質素な部屋に人を呼びつけて2人きり、だなんて状況がハナから怪しいものだが、今はそんなことはどうでもよかった。
「いいですか? 私はこう質問したんです。『次にする投稿はどんなものなんですか』、と。決して文字数なんて聞いた訳じゃありません。ここまでは良いですね?」
「ああ、そうだな。」
ワインを片手に生返事する姿が実に腹立たしいが、ぐっと堪える。追求すべきはそこじゃない。
「……そう、文字数について聞いたわけじゃありません。ですからまだ、聞き間違いでなくても、私の見当違いの可能性があります。それ故に、確認させてもらいます。」
「どうぞ?」
「……次のツイートの、文字数は。」
「2000字だ。それ以上でも、それ以下でもない。」
「……ッ!」
ああ、大声を出すためにこんなにも息を吸い込んだのは、いつが最後だっただろうか。反抗期の頃、母との喧嘩中に言ってはいけないことを口走ったときだっただろうか。
「 何を寝ぼけたことを言ってるんですか!? 私は、確かに貴方の投稿は面白いと思ってる。正直『なんでこんなのがバズるんだ?』って思うことは少なくないですが、それでも! だからこそ、言わせてもらいます。2000字!?ふざけてんですか!?Twitter(現𝕏)のツイート(現ポスト)の制限文字数知ってますよね? 140字ですよ、140字ぃ! その20倍近く書こうって、馬鹿じゃないですかァ!?」
「うるさいなあ。大声を出すな、酒が不味くなる。」
「さけっ……はぁ。」
呆れて、やっと私は冷静になった。頭に上った血が体に戻っていくのを感じる。そうだ、この男は飄々としてこそいるが、なんの考えもなしにそんなことを言い出す人じゃない。……そのはずだ。
「でも、どうするんですか? 2000字なんて、そんなに文字数あったら、小論文くらい書けちゃいますよ? それに今言った通り、Twitter(現𝕏)は140字までしかツイート(現ポスト)できませんし…… 」
私のその言葉を聞いて、彼の目が暗闇の中でキラリと光った。……なにか喋るチャンスを与えてしまったらしい。
「そう、その通りだ。確かに、Twitter(現𝕏)に一度に投稿できる文字数は140字までだ。それ以上はリプツリーに繋げるか、あるいは画像のALTに書き込むか……そうしなければ書き込めない。」
「そうでしょう? ですから、そんな馬鹿なことは……。」
「“普通のユーザー”なら、な。」
より一層、ギラッと光った彼の目を見て、私はハッとする。そうだ、一つだけ方法があるではないか。小細工無しで、大量の文字を書き込む方法が!
「Twitter Blue(現𝕏プレミアム)……ですか。」
「Exactly!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるっさァ!?」
今度は彼の方が大きな声を出した。ランタンの火が消えてしまいそうな程に揺らぐ。
「ハァ、ハァ……もう! 馬鹿でかい声出さないでください!!」
「ハッハッハ!すまない、すまない。」
狭い部屋にゲラゲラとした笑い声が響く。仄暗い印象と相まって不気味である。
「というわけで、ね。僕は𝕏プレミアムに登録したのさ。これから長文ツイートを試みるところなんだ。君にはそれを手伝ってもらおうと思ってね。なにせ2000字なんて大量の文字、1人じゃ……」
「あ、それなんですけど。」
「何かな?」
「このポスト、もうすぐ2000字に届きそうですよ?」
「……マジで?」
「大マジです。」
「……オチは?」
「そんなの自分で考えてくださいよ。」
部屋を沈黙が支配する。
「……ここに、爆弾とスイッチがあるんだがね?」
「却下」
「実は夢で……」
「却下」
「じゃあもういいよ!わかったよ!画面の前のお前!
𝕏プレミアムはいいぞ!!!!!!!!!!!!!!!」

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