ミトミえもん

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ミトミえもん(グルメ活動家)/株式会社はらぺこ(飲食事業)/グルメサイト「食べある記」(人生の食事履歴全公開!!)→https://t.co/WwciwWnbTT

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横浜駅西口から少し歩いた岡野交差点の一角。雑居ビルの2階に、静かに看板を掲げる『バロンヌードル』。創業は、2022年。目印は「営魚中」の札。営業中のサインに魚を掛けた軽い洒落が、この店の空気感をよく表している。 四角い器で提供されるラーメンは、見た目からすでに定番の味噌ラーメンとは違う印象を与える。だが、この個性は器の形だけにとどまらない。スープは白味噌を主体に数種をブレンドし、そこに鯵の干物を使った魚介出汁を重ねたもの。味噌のまろやかな甘みの中に、魚介の香ばしさと独特の輪郭が混じり合い、どこかクセのある味わいがじんわりと広がる。重たくないが軽くもない。 麺は三河屋製麺の中太麺。もっちりとした食感がスープとよく馴染み、口に入れた時の収まりがいい。チャーシューは二種。それぞれの質感と味の差が一杯の中で自然な変化を生んでいる。紫キャベツともやしが加わることで、味噌ラーメン特有の重さにちょっとした抜けが生まれているのも印象的。 そして、用意された味変アイテム。七味でも魚粉でもなく、シナモンを思わせるようなスパイス風味。油やスープの熱で溶け出していく中で、後半の味に微かな異国感が現れる。これもまた個性。好みが分かれるところかもしれないが、仕掛けとしての面白さはある。 全体を通して、定番の枠に収まりきらない一杯だった。四角い器に始まり、白味噌と干物出汁の組み合わせ、シナモン風味のスパイスによる味変まで、すべてに明確な個性が宿る。いわゆる味噌ラーメンを期待して来ると面食らうかもしれないが、それも含めてこの店の面白さ。ご馳走様でした。
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六本木の片隅で、光る看板が静かに主張する『WAGYU BURGER HIROKIYA』。あの「ヒロキヤ」が、新たな形で仕掛けたプロジェクトだ。元々は、インスタを中心に“映える料理”で一世を風靡した存在。フーディーやインフルエンサーの間ではお馴染みの名前だったが、今回は自身の世界観を“ハンバーガー”というキャンバスにぶつけてきた。フォトジェニックで、分かりやすく、でも一切の妥協なし。まさに、ヒロキヤらしい展開。 メニューは極限まで絞られ、主軸はひとつ——「HIROKIYAバーガー」。肉とパンとソース、それだけ。装飾的なトッピングは一切なし。だが、むしろそのミニマルな構成が、驚くほどフォトジェニック。整ったバンズ、圧巻の肉厚パティ、中心にちょこんと乗ったマヨネーズ。必要以上に主張しないからこそ、画になる。 肝心の味わいも、もちろん一筋縄ではいかない。パティは、A5ランクの和牛を100%使用。“朝挽き”“つなぎゼロ”のこだわりにより、ステーキを噛み締めているような野性味と、滴るようなジューシーさが共存する。ダブルで頼めば、肉の厚みと旨味が層を成し、圧倒的な満足感。焦げの香ばしさ、和牛の甘み、マヨネーズの酸味とコク——この三重奏が、噛むたびに波のように押し寄せてくる。 添えられる「ミニフライドポテト」も抜かりない。カリカリに揚がった細切りポテトは軽快な食感で、ハンバーガーの濃厚さをリセットする名脇役。ここでも活躍するのが、共通のマヨネーズソース。ポテトとバーガー、双方をつなぐ味のハブとして、実に機能的だ。 空間もまたシンプル。コンクリートの質感と無機質な照明が交差する店内は、過度な演出を排しつつも、“ヒロキヤ的”世界観がしっかりと息づく。素材と構成の引き算が、そのまま美しさへと転化する設計。そう、ここでは「シンプルさ」が逆にフォトジェニックなのだ。ご馳走様でした。
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エリックサウス、アジャンタ、アチャカナといった名店で南インド料理とスパイスの基礎を積み上げ、2022年に独立。永田紋子氏の歩みは、そのまま『Spice Bar モンカリー』の輪郭を形作っている。店名の“モン”は、永田紋子氏自身の名前に由来するもの。これまでの経験を落とし込んだカレー、そんなスタンスがこの名前から自然と伝わってくる。路地裏の一角にありながら、開店前から人が集まるのは、このスタンスが単純に支持され、しっかり人気を得ている証拠だ。 席に着いて最初に出てくるのが、スパイスの白湯のような一杯。これがあるだけで、この店の姿勢が伝わってくる。まずは身体を整えるところから始める、という提案。香りは穏やかで、飲み口はすっと軽い。それでも、この一杯を挟むことで、その後に続くカレーの味がきれいに入ってくる。こだわりと配慮の積み重ねから、この店のポテンシャルの高さが自然と伝わってくる。 メニューは「モンカリープレート」を軸に、「ポーク」「チキン」「ベジ」という三種のカレーが並ぶ構成で、ミニカレーという形で全種類を組み合わせることができる。プレートにはライス、副菜、アチャール、ヨーグルトが付き、追加で「玉子のアチャール」と「ラッサムスープ」という選択肢が用意されている。半熟玉子をスパイスオイルに漬けたアチャールは、単体でも成立するレベルだし、ラッサムスープは酸味とスパイスで口内を整える役割を担う。注文は、もちろん全部だ。 カレーは「ポーク」「チキン」「ベジ」の三種。それぞれ方向性がはっきりしていて、役割が被らない。「ポーク」は岩中豚の肩ロースを使い、ビネガー由来の酸味を効かせた仕立て。豚の旨味と甘みをしっかり受け止めつつ、後味は軽い。添えられた生姜との相性もよく、全体の輪郭を一段引き締める。「チキン」はココナッツの甘みとコクを土台に、爽快な辛さが立ち上がる構成。「ベジ」はダルを主体に、豆と野菜の自然な甘さを前面に出した一皿。クミンが味の輪郭を与え、全体をまとめる静かな要として機能する。 酸味、辛味、甘味の置き方、カレー同士の役割分担、食べ進めたときの流れ。その一つ一つに、積み重ねてきた経験が反映されていることは感じられる。レベルの高さは皿の上にきちんと表れているし、そこに細かなこだわりと無理のない居心地の良さが重なる。結果として、人が集まり、行列が生まれているのだ。ご馳走様です。
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恵比寿の住宅街に2025年7月オープンした『ドン・デ・ラ・ナチュレ』。店内はピンクがかった柔らかなトーンでまとめられ、オープンキッチンを中心に明るく清潔感のある空間が広がる。カウンター席のみの構成で、料理人の所作がよく見える距離感も心地いい。厨房に立つのは若いシェフたち。ビストロやイタリアンのような雰囲気があり、いわゆる洋食店とは少し違った空気が漂う。 メニューは洋食の定番である、ポークカツや蟹クリームコロッケなどが並ぶ。季節限定でカキフライなども加わるようだ。すべてにサラダ・スープ・ライス付き。素材には幻水豚や本ずわい蟹など、名前のある食材を使用しており、定番ながらも内容に厚みがある。この日のスープは「有機かぼちゃのポタージュ」。野菜の甘みが素直に引き出されており、口当たりも滑らか。最初の一口で料理全体への信頼が生まれる。 看板の「幻水豚のポークジンジャー」は、厚切りロースに香ばしい焼き目をつけ、生姜ダレをたっぷりまとわせた一皿。タレは甘さよりも力強さが前に出ていて、生姜の辛味と醤油のコクがぐっと舌を掴む。そこに玉ねぎの甘みが重なり、パンチがありつつも立体的な味わいに仕上がっている。特徴的なのは、その強いタレのあとに、しっかりと肉の旨味が広がってくること。その事実が、幻水豚という素材のポテンシャルをはっきりと証明している。脂ものりつつ、重たさはなく、火入れも的確。キャベツやスプラウトが味を整え、レモンの酸味で輪郭が締まる。ご飯が足りなくなるのは時間の問題だった。 料理の完成度もさることながら、空間の空気感、料理人の立ち姿、素材への目配りに至るまで、すべてに芯がある。いわゆる昔ながらの洋食とは一線を画す構成で、店の佇まいも料理も洗練されている。まだオープンから日が浅いが、これから間違いなく支持を集めていくだろう。ご馳走さまでした。
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麻布台ヒルズ、BMWのショールームが入るビルの2階。その現代的で洗練された空間の延長線上に日本料理店がある。その名は『無題』。いわゆる日本料理らしい設えではなく、研ぎ澄まされたミニマルな空間は、どこか美術館のようでもあり、都市的な空気をまとっている。華美な演出を避け、素材そのものの美味しさと美しさをまっすぐに引き出す——その姿勢が、料理にも空間にも一貫して貫かれている。 料理を手がけるのは、赤坂の名店「松川」出身の若き料理人。名門の技術を礎にしながらも、どこか自由。その誠実でユニークなアプローチが、一皿ごとの完成度にそのまま表れている。食材は、間人蟹や真鴨、鮟肝、甘海老など、冬の恵みがずらりと並ぶが、ただの贅沢に終わらず、素材の持ち味を丁寧に引き出しながら、ときに軽やかなアクセントを加えてくる。正統の中に、ほんの少しの遊び心。その緩急が、料理に心地よいリズムを生んでいる。 コースの幕開けは「蟹の玉締め」。使われるのは間人蟹と河豚の白子。濃厚と濃厚の取り合わせながら、火入れと玉子の包容力で品よくまとまっている。山葵の清涼感も効果的で、素材の力を引き出しながらも、あくまで一体感を優先する姿勢が見える。続く「河豚と鮟肝」は、濃淡の妙が光る。河豚の透明感ある旨味に、鮟肝のコクが静かに寄り添い、重さを感じさせない仕立て。ここで供される「ひれ酒」も印象的。 「御椀」は、鹿児島の真鴨で仕立てた鴨真薯。肉の力強さを湛えながらも、舌触りは驚くほどなめらか。旨味がじわりと広がる出汁は、柚子の香りが全体を引き締め、椀物のあるべき姿を改めて実感させてくれる。「唐墨餅」は、文字通り香ばしく焼かれた餅に、唐墨の塩気とコクが絡む一皿。餅自体にしっかりとした存在感があり、ただの添えでは終わらない。真っ直ぐに日本酒を欲する体を刺激する。 焼物の「真名鰹」は、ふっくらとした身に、花山葵の粕漬けが添えられる。脂の甘みに、辛味と香りを重ねるバランス感覚が見事。ここにも軽やかなアクセントの意識が貫かれている。「甘海老」は、ゆるく叩かれ、舌の上でとろけるようなテクスチャに。添えられるのは、柚子胡椒ではなく「檸檬胡椒」。よりシャープな香りが甘さを引き締め、輪郭のある味わいに仕上げている。 干物で登場したのは「ぐじの酒干し」。旨味が凝縮された身に、菜の花の苦味を合わせて、余韻はほのかに春めく。そして強く印象に残ったのが「葱」。使われる出汁は蟹と昆布のみ。派手さは一切ないが、葱の甘みと香りがストレートに立ち上がり、高級素材の食べさせ方にセンスがにじむ。肉料理は「鴨の炭焼き」。しっとりとした赤身に、皮目の香ばしさ。火入れの巧みさと、鴨そのものの力強さがぶつかり合いながらも、穏やかなバランスで収まっている。 そして締めの「食事」。まずは蒲焼の鰻を白飯で。しっかりとした照りと、米の粒立ちの良さが際立つ。次に供されるのが、卵かけご飯(TKG)。卵黄の濃厚さ、割下の香り、炊きたてのご飯。すべてが過不足なく、ただただ純粋に美味い。思わずかき込みたくなる味に、体が正直に反応する。 甘味は二品。「苺とどぶろく」は、粒感のある苺の酸味と、どぶろくの発酵のまろやかさが調和し、飲むデザートのような一杯。「プリン」はバニラの香りがしっかりと立ち、なめらかさとカラメルのほろ苦さが記憶に残る。 料理を振り返って感じるのは、若い料理人の中にすでに芽生えている自分の料理という確かな輪郭。赤坂の名店「松川」で培った高い技術をベースにしながらも、ただなぞるだけでは終わらない。檸檬胡椒のような香りの工夫、出汁を削ぎ落とした引き算の表現、シンプルな構成の中に光る素材の見せ方。そのどれもが、「自分はこう食べさせたい」という意志に満ちている。まだ若く、これから輪郭はさらに研ぎ澄まされていくのだろうが、今この時点でここまでの世界を見せてくれることに、率直に驚かされた。ご馳走様です。
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京都・西七条、交通量の多い通り沿いにそっと掲げられた紫の暖簾。詩的なネーミングの『中華そば 麦の夜明け』の屋号からは、どこか決意のようなものを感じる。夜明けとは、新しい始まり。きっと、新たな挑戦をその名前に託したのだろう。ならば、その意志がどのように一杯へと落とし込まれているのか、じっくり味わわせていただきましょう。 看板メニューは「帆立と山椒の中華そば」。まず丼から立ち上る香りに引き寄せられる。帆立特有の甘く芳醇な香りが、昆布や節の下支えと合わさり、ふわっと鼻を抜けていく。口に含めば、帆立の繊維がスープの底に沈んでいることに気づく。それが舌に触れ、じんわりと旨味を増幅させてくるあたりに、静かながらも粘り強い主張を感じる。そして和歌山県産の「ぶどう山椒」がそっと効かされ、優しげな口当たりの中にほのかな刺激を添える。穏やかなスープの中に、じわりとした緊張感が生まれている。 麺はやや柔らかめの設定。意図的にハードなコシを避け、スープとの一体感を重視しているように感じる。個性の強いスープとトッピングに寄り添うには、確かにこの柔らかさがちょうどいい。 トッピングの構成も印象的だ。「チャーシュー」は芯までしっとりと火が入り、脂の甘みがスープと馴染む。「ワンタン」は皮のむっちりとした食感が心地よく、餡の旨味がじんわりと広がる。「メンマ」は分厚くカットされており、コリッとした歯ごたえがアクセントに。「味玉」は濃厚な黄身がまろやかに全体を包み込む。どれもそれぞれの役割を果たしつつ、一杯の中でしっかりと調和している。 サイドの「帆立の炊きこみご飯」にもその姿勢は表れている。ふっくらと炊かれた米に帆立の旨味がじんわりと染み込み、香り高く、噛みしめるごとに滋味が広がる。こちらもスープと共鳴するように計算されている。 “帆立を主役にしたラーメン”──そう聞くと、どこか淡白な印象を抱くかもしれない。だが実際はその逆。帆立は旨味成分の塊であり、それをいかに引き出し、他とどう響き合わせるかが鍵となる素材だ。『中華そば 麦の夜明け』は、その旨味を軸に、山椒やトッピング、ご飯に至るまで、全体を一つの設計としてまとめ上げている。帆立という素材の可能性に、新たな輪郭を与える一杯だった。ご馳走さまでした。
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軽井沢の深く静かな空気に包まれる『レストラン ナズ』。地元・軽井沢内での移転を経て、料理・空間・体験のすべてがひとつ上のフェーズへと昇華された印象。建築士である奥様とともに設計された新たな空間は、料理の世界観と歩調を合わせるように、静かで凛とした佇まいを見せる。そこに立ち上がるのは、テロワールの記憶を料理に写し取るという意思。風土、季節、時間。目に見えないそれらを、五感で捉え直す場だ。 その思想の象徴とも言えるのが、信州サーモンを主軸に据えた二皿のスペシャリテだ。ひとつは、3年半かけて育てられたサーモンをドライエイジングでさらに凝縮し、発酵蕪とトマトのソースを重ねた構成。香り、酸、旨味が滑らかに折り重なり、時間の蓄積をひと口の中で感じさせる。対となるのは、3年熟成の奈良漬を添えたシンプルな一皿。構成は極限まで抑えられているが、サーモンの脂と奈良漬の酸が香りとして響き合い、余韻には静かな深みが残る。ひとつは構築、もうひとつは削ぎ落とし。異なる手法で、同じ素材の輪郭を浮かび上がらせていた。 冒頭に登場する一皿にして、すでにこのコースの語り口が明確に現れていた。中心にあるのは「里芋」。高温のフリットではなく、じっくりと低温で揚げ、ねっとりとした質感と芯に残る水分を巧みにコントロールしている。そこに巻かれるのは、1年間白カビで熟成させた峰村牛の生ハム。脂の甘みと熟成香が芋の滋味と静かに重なり、香りの中心には黒胡椒が淡く漂う。過不足のない構成が、すでに『ナズ』らしさを物語る。合わせるペアリングは、苺をトマトウォーターのように抽出した液体。甘さを削ぎ落とし、高麗人参や根菜のようなニュアンスを滲ませている。口の中に残る土のような余韻が、芋と生ハムの香りと静かに呼応していた。 長野の風土を一皿に凝縮したような料理。主役は、希少な伝統野菜「綿内蓮根」。炭火でじっくりと火を入れ、ほくっとした甘みとシャキッとした食感の両立が見事。これに合わせるのは、おぼろ状にした八島豆腐と、純血種の黒豚のバラ肉。豆腐のなめらかさと豚のコクが白和えに溶け合い、エゴマと木の芽が香りの輪郭を引き締める。構成は素朴ながら、風味の層が深い 手打ちの蕎麦は、朝、シェフ自らが打ったもの。冷たく引き締められた麺に重ねられるのは、すり鉢で滑らかにしたブロッコリーのソース、3日寝かせて燻したフグ、そして海苔を叩いて香りを纏わせたコーティング。さらにフレッシュなキャビアを一粒添え、塩味の輪郭を精密に決めている。ブロッコリーが蕎麦の青さを支え、海苔と燻製香が静かに押し上げ、キャビアが後味にわずかな緊張を与える。ソースに角はなく、アタックから余韻までの香りと味の展開が、計算し尽くされていた。 月輪熊の肉を主役に据えた、滋味深い土鍋仕立て。柔らかな甘みをたたえた熊肉に、酒粕のコクと米のとろみが重なり、ほのかな発酵の香りとともに身体に染み入るような味わい。天然のセリが青さを添え、黒七味が香りに奥行きを与える。構成は素朴で静かだが、素材の持つ野性と発酵の優しさが混ざり合い、複雑さよりも深さを感じさせる一皿だった。 朝締めの合鴨に、発酵させた野沢菜を合わせたメンチカツ。仕留めて一日しか経っていない鴨肉は、鮮度の高さゆえに柔らかく、香りはクリア。そこに野沢菜の酸と発酵香が調味料のように作用し、揚げ物でありながら油で食べさせない設計になっている。さらに、野沢菜はパウダーとしても使われ、香りの立ち上がりを補強。自家製のデミグラスソースが全体をつなぎ、中心はレアの火入れで肉の旨味がダイレクトに伝わる。形は素朴でも、組み立ては驚くほど緻密。これはちょっと、うますぎた。 井戸の湧き水で育てられた鯉を、丸ごと一尾――身も骨も内臓も血までも――余すことなく使ったラーメン。スープは、火入れを繰り返すことで雑味を旨味へと変換し、鯉の生命力そのものを受け止めるような濃度と厚みを持つ。ラーメンという親しみのある器に収められてはいるが、内容は極めて本質的。命に向き合う視線と、それを美味へと昇華する技術が、静かに一体となっていた。 が儚く、乾燥させた花粉のクランチが食感と香りのアクセントに。甘味の中にある酸味と青さが、最後の一口に軽やかな余韻を残す。そして、締めのヘーゼルナッツのタルト。使われているのはナッツとバターのみ、小麦粉不使用。素材の油分と香りを凝縮したような力強い焼き上がりで、シンプルな構成だからこそ香ばしさと深みが際立つ。デザートまでも、料理と同じ美学で貫かれていた。 ひと皿ひと皿に込められたのは、精緻な構成と、静かに研ぎ澄まされた香りの設計。そのすべてが、土地の記憶や空気を背景に、過不足なく整えられていた。情報量の多い料理でありながら、ひとつとして過剰にならず、すべてが軽井沢の空気に自然と馴染んでいく。ご馳走様でした。
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金沢駅からほど近い場所にある『すし屋 小桜』。店主は千葉県出身。銀座で修行を重ねたのち、縁のなかった金沢に来た。そこから10年、この街で店を続けてきた。地元を大切にしているからこそ、価格設定は抑えめになり、日本酒も石川に寄せすぎない構成になる。結果として、それは高騰を続ける寿司業界に対して、小さな石を静かに投げ込むような立ち位置にも見える。その選択は、この場所で続けていくための前提条件として、淡々と積み上げられてきたものだろう。 ランチは握りのみのコース設計で、所要時間は1時間強。かなりのスピード感で握られていくが、展開は雑ではなく、ただ間がない。何千、何万と積み重ねてきた結果としての速さが、そのままコース全体のリズムを作っている。シャリはかため寄りではあるが、口の中ではすっとほどけるタイプで、やや甘め。そのシャリに対して、ネタは状態に応じて仕事を変える方向性。昆布締めもあれば、炙りもしっかり使う。火を入れるか、塩で整えるか、そのまま出すかは、北陸の魚の脂や水分量を見極めた上での判断だ。構成の軸には北陸の恵みがあり、白海老、鰤、のどぐろといった土地の食材が自然に並ぶ。 コースのラインナップはこちら。 「白海老」昆布締めで旨味を重ねた一貫。 「鰤」脂の上質さが伝わる。 「甘海老」ねっとりとした甘さがストレートに響く。 「鰆」炙りで香りを立たせる。 「鯵」冬の個体だが、厚みあるカット。 「なめこ汁」流れを整える合間。 「真ハタ」塩で脂のバランスを 「のどぐろ」炙りで香りを前に。 「鮪」食べ比べ。二週間寝かせ、後半に持ってくるのは脂を少し溶かした状態で提供するため。 「アオリイカ」ねっとり、胡麻がアクセント。 「雲丹」北海道産、有明の海苔合わせ。 「うなきゅう」きゅうりの皮の香りが印象的。 「玉子」白身を使ったケーキ仕立て。 「コーヒーゼリー」選べる締めの一品。 速さも、価格も、構成も、すべては10年この場所で店を続けてきた結果だ。高騰や話題性とは別のところで、寿司としてどう成立させるかを考え続けてきた。その判断が、ランチの1時間強という枠の中に、しっかり収まっている。食べ終えたあとに残るのは、満足感と納得感。その両方がきちんと揃っているからこそ、『すし屋 小桜』は金沢で寿司を食べる選択肢として、自然に名前が挙がるのだ。ご馳走様でした。
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長野の山あいに店を構える『ささくら』は、2001年創業。20年以上この地で暖簾を守り続けてきた時間が、そのまま店の佇まいと味に刻み込まれている。信州そばという文化を土台にしながら、随所にこの店ならではの工夫と遊び心が見え、待ちが発生するのも納得の完成度を誇る。 使うのは長野県産のそば粉。自家製粉を掲げ、そばの香りと甘みを最大限に引き出す一方で、食べ方や組み立てには明確な意志がある。伝統をなぞるだけではなく、どう食べると一番おいしいかを考え抜いた結果が、メニュー全体に反映されている。 まず「おしぼり蕎麦」。辛味大根を搾り、その汁をつゆとして使うのは、信州の寒冷地で育まれてきた素朴なそば文化のひとつで、そこに味噌を溶くのもごく自然な流れだ。信州でも個性の強い食べ方だが、ここでは刺激が前に出すぎない。口に含むと大根の辛味がキレよく立ち上がり、すぐに味噌のコクが追いかけ、最後にそばの甘みが静かに残る。 続く「そば三味」は、この店の懐の深さを示す構成。自家製クルミだれは、山国・信州らしい保存食文化の延長線にあり、香ばしさとほのかな甘みがそばの風味を押し広げる。クルミが“変化球”ではなく、土地の味として自然に溶け込んでいるのがいい。とろろは粘度が強すぎず、そばを包み込むような役回り。そして何より、そばつゆが抜群にうまい。出汁の輪郭が明瞭で、そばの香りを前に押し出す力がある。ベースが強いからこそ、三つの味がそれぞれ個性を保ったまま成立している。 一品料理の「蕎麦の実のコロッケ」も抜かりがない。そば粉ではなく蕎麦の実を使うことで、ほくっとした食感の中にプチっとした歯触りが残り、そばという食材の別の表情を引き出している。信州では蕎麦の実は日常的に使われてきた素材だが、それをコロッケという形に落とし込む発想がいい。下味がしっかり入っているためソースいらずで成立する。 『ささくら』が魅力的なのは、信州そばという枠組みの中で、素材・食べ方・一品料理までを一続きの体験として成立させている点にある。おしぼり蕎麦のような土地性の強い一杯も、クルミだれや蕎麦の実のコロッケといった工夫も、どれかが浮くことなく、すべてがそばをおいしく食べるために機能している。ご馳走様でした。
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明治通り沿い、広尾駅から徒歩すぐ。地下に広がるステーキハウス『ラステイクス』は、2015年創業の熟成肉とラムの名店『WAKANUI』から独立して生まれた店。WAKANUIといえば、ニュージーランド産スプリングラムを日本に広めた立役者として知られ、その血を継ぐこの店もまた然り。店内はシックで落ち着いた雰囲気に包まれ、過剰な装飾を排した空間に、火と肉が自然と主役として浮かび上がる。 最初に供されたのは「ラムチョップ」。骨付きのまま豪快に焼き上げられたそれは、ナイフなんていらない。手に持ってそのままかぶりつくのが正解だ。表面にはほどよく焼き目が入り、噛んだ瞬間にじゅわっと脂と肉汁があふれ出す。ラム特有の香りと甘みがじわじわと広がり、骨の際まで夢中でしゃぶってしまう。そしてメインで登場する「NZスプリングラム “WAKANUI” 藁焼き」は、その印象にさらなる厚みを加える存在。藁の煙で香りづけされた骨付きラムは、野趣と上品さが同居し、噛むほどに香ばしさと脂の甘みが重なり合う。 続いての牛肉は「NZ牧草牛テンダーロイン “シルバーファン” ラステイクススタイル」。US産クリークストーン社のプライムビーフも扱うこの店だが、今回は牧草で育った赤身の力強さを全面に押し出した構成。じっくり焼き上げられたテンダーロインは、表面の香り立ちと内部のしっとり感が共存し、噛むごとに旨味がじわりと広がる。 その肉に寄り添う付け合わせがまたいい。「ビーフフライドポテト」は、ただのサイドにあらず。牛脂でじっくり揚げることで、ステーキとの間に味のブリッジを生み出す設計。「シュリンプマカロニグラタン」は、ベシャメルの濃厚なコクに加えて、しっかりとした存在感を放つ海老の身がごろりと入る。旨味を支えるどころか、ソースとともに主軸を張るようなバランス。 前後を固める料理にも抜かりはない。「ジャンボシュリンプカクテル」は、冷たく締められた海老のプリッとした弾力に、クラシックなカクテルソースの甘酸っぱさが絶妙に絡む。「ラステイクスフレッシュトスサラダ 柚子西京味噌ドレッシング」は、山盛りの野菜に柚子と味噌の優しいコクを加え、肉料理のスタートとしても、途中のブレイクにも活躍する。そして締めの「温かいチーズケーキ」。スフレのように軽やかに焼き上げられた生地に、チーズのコーティングがとろりと重なる。 ラムの名店『WAKANUI』の出自は、もちろんこの店の大きな魅力のひとつだ。だが『ラステイクス』の強みは、それだけにとどまらない。ラムや牧草牛といったメインにしっかり芯がありつつ、その前後を固める料理もまた丁寧で、抜かりがない。火と肉を中心に据えた構成はストレートながら、前菜や付け合わせ、デザートに至るまで、流れとしての完成度が高い。ご馳走様でした。
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名古屋・覚王山の住宅街、コンクリートの階段を上がった先に構える『tbz 覚王山本店』。無機質で静かな外観、その流れを汲むように店内もモダンで落ち着いた設えだ。中でも印象的なのが、空間の中央に据えられた盆栽の存在。直線的で都会的な空間の中に、日本的な象徴が一つ置かれることで、ハンバーガーショップでありながら一味違う空気が生まれている。この店が向いている方向性を、言葉より先に空間が語ってくる。 その盆栽と自然につながるのが、料理におけるテリヤキというテーマだ。かつての屋号は「TERIYAKI BOYS」。今は短く削ぎ落とした名前になったが、テリヤキへの意識はしっかり残っている。甘辛のテリヤキソースは輪郭が明確で、肉の旨味を素直に重なる設計。日本的な要素を、バーガーの中でどう成立させるか。その答えを、理屈ではなく味で示している。 看板バーガーは「tbz」。 テリヤキソース、焼き餅、海苔、チェダーチーズ、レタス、パティという構成。まず軸になるのはテリヤキソース。甘辛のバランスがよく、屋号の名残を感じさせる安定感がある。そこに焼き餅を重ねることで、モチの甘味と粘度が加わり、日本的な文脈が一段濃くなる。海苔の香りが全体をつなぎ、チェダーチーズのコクが味に厚みを出す。シャキシャキのレタスが流れを整え、バンズは表面が香ばしく、中はもっちり。かりもち、という表現がぴたりとはまる食感で、全体を最後まで安定させている。 付け合わせのポテトは、外はかりかり、中はほくり。味は4種類から選べて、この日はBBQをチョイス。香ばしさと甘みがポテトによく合い、手が止まらない。余計な装飾はなく、素直にうまい。やっぱりハンバーガーにはコーラ。甘さと炭酸が、テリヤキの余韻をきれいに切ってくれる。 空間に置かれた盆栽から、テリヤキソース、餅、海苔へと続く流れが、一本のコンセプトとしてきれいにつながっている店。その日本的な要素の扱い方に無理がなく、結果として全体にセンスの良さが滲み出る。狙いを明確にし、それを最後まで通す。その姿勢が、このバーガーの説得力になっている。ご馳走様でした。
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中目黒に店を構える『鮨 尚充』。この店を語るなら、まず雲丹から始めなければならない。ここでの雲丹は、数あるネタの一つではなく、店の思想そのものだ。雲丹をどう仕入れ、どう並べ、どう体験させるか。その設計が、この店の輪郭を決定づけている。2025年の初競りで700万円という価格を記録した「はだての雲丹」は、その象徴的な存在。話題性が先行しがちだが、実際に口にすれば評価軸は一瞬で切り替わる。粒の張り、舌に触れた瞬間の密度、甘味の立ち上がりと引き際。そのすべてが明確で、数字が誇張ではなかったことを体が理解してしまう。 だが尚充の凄みは、一つの頂点を見せて終わりではない。木村水産の雲丹は、養殖という言葉のイメージを完全に裏切る完成度で、輪郭のある旨味と安定した質感を示す。希海の雲丹は香りの立ち方が印象的で、小西商店の雲丹は余韻の伸びが美しい。塩水雲丹は加工を極力排したからこそ、海そのものの表情が前に出る。甘い、濃厚、クリーミー。そうした単語では整理しきれない差異を、量と種類の両面から体に刻み込んでくる。良質な雲丹を、これほどの密度で食べ比べる経験は、正直ここ以外では成立しない。 だが当然ながら、提供されるのは雲丹だけではない。印象が雲丹に強く残るだけで、他のネタも同じ密度で組み立てられている。「マツカワガレイ」は張りのある身質で鮮度と仕事量を伝え、「牡蠣」は厚みのある旨味で押し切る構成。「しじみ汁」は派手さこそないが、コース全体の輪郭を静かに整える。「背トロ」は脂の質感が明確で、「墨烏賊」は食感と甘味の輪郭がはっきりしている。「鮑」は火入れと歯応えのバランスが良く、「マナガツオ」は身の柔らかさと香りの立ち方が印象に残る。「中トロ」は役割が分かりやすく、「唐墨餅」は塩気と餅の一体感がストレートに響く。「大トロ」と「赤身」は明確なコントラストを描き、「クエの酒蒸し」は滋味深い。「トロたくキャビア」は背徳感を残しつつ重たくならず、「トラフグ白子」は素材の濃度と旨味の押し出しが素直に伝わる。「うなきゅう」の余韻まで含め、ネタは多いが散らからない。一つひとつが、雲丹と並べても引けを取らない強度を持っている。 『鮨 尚充』は、雲丹を主軸に据えながらも、そこに依存しない構造を持つ。雲丹で印象を決定づけ、その他のネタで鮨屋としての地力を示す。その設計が一貫しているから、体験としての説得力が生まれる。結果的に記憶に残る店になっている。また中目黒に足を運ぶ理由は、十分だ。ご馳走様でした。
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ミトミえもん
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上野駅から徒歩すぐ、アメ横の喧騒を抜けて地下へと階段を下りると辿り着くのが『純喫茶 丘』、1964年(昭和39年)創業という戦後の高度成長期から続く老舗純喫茶で、地下空間に漂うシャンデリアの光やステンドグラスが昭和の風情をそのまま保っている、お手本のような超レトロな空間だ。 店内に足を踏み入れると、時間がゆっくりと沈み込むような空気が支配していて、ここで出される料理もまた時代の記憶とともにあるべきものとして在る。「ナポリタン」は太くてもちもちとしたパスタがケチャップソースと絡み、ピーマンや玉ねぎがごろっと存在感を放ちながら、ひと口ごとに郷愁が胸に蘇る味わいで、喫茶店の王道をまっすぐに体現している。 「ピラフ」はほんのりとバターの香りが立ち、米粒ひとつひとつにまろやかなコクが染み渡り、具材の優しいアクセントが全体をまとめていく、こちらも懐かしいひと皿だ。 『丘』は、昭和という時代の空気を味わいに行く場所であり、写真のような「ナポリタン」や「ピラフ」は、その体験を象徴する存在となっている。訪れた者に安心感と郷愁をそっと届けるこの純喫茶は、上野の街で一息つくなら外せないスポットだ。ご馳走様でした。
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軽井沢の森に溶け込むように建つ、木造のロッジ風建築。正面では星条旗が揺れ、扉を開ければ、待合室の壁一面にアメリカのスターたちの写真が並ぶ。1978年創業の『ザ カウボーイハウス』。11時からの記帳制で名前を書き、順番を待ち、席に着いてから肉を焼く。その流れは今も変わらない。観光地・軽井沢にありながら、語られるのは景色でも季節でもなく、ただステーキの話だけだ。星条旗とスター写真がつくるアメリカンな空気感は、やはりステーキによく似合う。 まずは「ポパイサラダ」。生のほうれん草に、ベーコンの脂と薫香をまとわせるだけの構成だが、この“だけ”が効いている。青さは残し、えぐみは出さず、脂でコーティングすることで口当たりを整える。ステーキ前の前菜として、胃を驚かせず、きちんと準備させる役割を果たす一皿。ここで余計なことをしない判断が、この店のスタンスを物語っている。 続いてステーキの食べ比べ。「リブロース」と「ヒレ」。リブロースは、旨味と脂の押し出しがはっきりしていて、ステーキを食べている実感が強い。余計な筋や脂は丁寧に外され、噛むごとに肉の甘みが広がる。一方のヒレは、柔らかさがそのまま価値になるタイプ。ナイフを入れた瞬間に抵抗がなく、口に入れるとすっとほどける。派手さはないが、食べ進めるほどに好感度が上がっていく。個人的にはヒレのバランスが好みで、フォークは自然とそちらに伸びていた。体は正直なものだ。 ここで存在感を増してくるのが、ソースとタバスコ。味噌と醤油、二種のソースはいずれも肉のための設計。味噌は鉄板の上で香ばしさを増し、コクで肉の輪郭を太くする。醤油は後味を引き締め、脂の余韻を整理する役割。そこに燻製のタバスコを足すと、香りが一段階前に出る。刺激は強めだが、ステーキが受け止め切るだけの力を持っているから成立する。味変というより、もう一つの表情を引き出すスイッチに近い。 ステーキを受け止める「ガーリックライス」も、この流れの延長線上にある。ガーリックはしっかり強く、遠慮はない。後半戦は、鉄板の上に置き、肉汁と熱を吸わせることでまた違った表情が楽しめる。食べ過ぎだと頭では分かっていても、手は止まらない。ステーキ屋として、正しい締め方だ。 『ザ カウボーイハウス』は、建物も、待ち時間も、料理の組み立ても、すべてがステーキに向かって揃えられている。肉を焼き、ソースを選び、鉄板の熱と一緒に食べ進める。その一連の流れが、この店の価値だ。40年以上続けてきた所作が、いまもそのまま機能している。軽井沢で、ステーキをきちんと食べに来る。その目的に、きちんと応えてくれる一軒だ。ご馳走様でした。
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大阪天満宮の路地で扉を開けた瞬間、もう勝負は始まっている。『大阪天満宮 鮨とよなが』のカウンターには、ただならぬ一体感がある。大将・豊永氏の一言をきっかけに会話が転がり、隣の客が笑い、また別の客が頷く。最初は点だった関係が、気づけば線になり、やがて面へと広がっていく。鮨屋でここまでカウンター全体が“ひとつの場”になる体験は、そう多くない。この圧倒的なコミュニケーション能力こそ、この店が放つ最大の個性であり、間違いなく大阪という土地が育てた才能だと思う。 だが、ここが重要なところで、この一体感は決して話術だけで成立しているわけではない。豊永氏がこれだけ自由に場を動かせるのは、手元が一切揺らがないからだ。大阪で長く腕を磨き、和食と鮨の基礎を身体に叩き込んできた職人としての蓄積がある。仕込みが盤石で、ネタの状態を完全に把握しているからこそ、会話をしながらでも鮨の精度が落ちない。むしろ、場の温度が上がるほど、料理が生き生きとしてくる。その関係性が、この店の面白さを決定づけている。 最初の一品は「茶碗蒸し」。鱈の白子を入れ、柳田蓮根で食感を作る。白子のとろみと出汁の旨味の中に、蓮根の歯触りが入ってきて、コースの口開けとしてちょうどいい。続く和歌山の「真鯛」は塩と酒で一週間寝かせ、カラスミを塩代わりに添える。熟成による旨味の膨らみとカラスミのコクがきれいに重なる。「蟹」は鳥取のせいこ蟹と松葉蟹を合わせ、内子・外子・身をほぐして土佐酢でまとめる。 脂の乗った「鰯の海苔巻き」は、一気に畳みかけるような旨さ。口に入れた瞬間に香りと脂が広がる。「真魚鰹」は味噌漬けにし、胡瓜の胡麻和えを合わせる。味噌のコクと白身の上品さを、胡瓜が程よく整える。「あん肝」はブロックで供され、奈良漬けが添えられる。濃厚さの中に甘みと歯触りが入り、最後まで重さを感じさせない。 ここから握りに入る。「中トロ」は卸がやま幸、産地は大間。脂はしっとりと広がりながらも重さはなく、口の中でほどけるように消えていく。握りの最初に置かれることで、これから続く流れへの期待値をきちんと上げてくれる。「〆鯖」は千枚漬けを合わせた構成で、柔らかな〆加減に甘酸っぱさが重なり、噛むごとに表情が変わる。「太刀魚」は竹岡産。皮目の香ばしさと、身のしっとりした火入れが印象的で、脂の甘みがじわっと広がる。 天然の「帆立」は、噛んだ瞬間に甘みが立ち上がり、余韻が長い。変に主張せず、握りの流れの中で自然と印象に残る。「赤身」はクリアな味わいで、香りと旨味の輪郭がはっきりしている。「小肌」はきっちり仕事が入り、酸の立ち方も穏やかで、全体を引き締める役回り。「鰆」は三重のトロ鰆。脂の甘みが前に出つつも重たさはなく、後半へ向かう流れを気持ちよくつないでくれる。 「雲丹」は甘みとコクがまっすぐに立ち、余計なことをしない潔さがいい。「牡丹海老」はねっとりとした甘さが広がり、自然と表情が緩む一貫。穴子は二種で、「穴子(塩)」は素材の甘みを素直に感じさせ、「穴子(ツメ)」はきれいな甘辛でまとめる。どちらもふわっとほどけ、食べ終わりの印象が軽い。 締めは「玉子干瓢」の太巻き。玉子の甘みと干瓢の旨味がきれいに重なり、コース全体を静かに収めていく。最後は「苺」。みずみずしい甘さが口の中を整え、心地よい余韻を残して終わる。 『大阪天満宮 鮨とよなが』が特別なのは、鮨の完成度とカウンターの熱量が、同じ高さで成立しているところにある。どちらか一方に寄れば成立しないが、ここでは会話が場をつくり、料理がその場を裏切らない。豊永氏の手元には一切の迷いがなく、その安定感があるからこそ、カウンター全体が自然とひとつにまとまっていく。気がつけば初対面同士だったはずの客が、同じ時間を共有している。その体験こそが、この店で鮨を食べる意味であり、大阪という土地が生んだひとつの完成形なのだと思う。ご馳走様でした。
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名鉄瀬戸線・清水駅近く、昼どきになると自然発生的に行列ができている老舗天ぷら店『光村』。1973年創業、新橋の天ぷら店で修業した初代が名古屋で暖簾を掲げ、現在は二代目へと受け継がれている。天ぷら専門店ではあるが、主戦場はあくまで丼。コースや高級路線に寄らず、天ぷらを日常の延長線に置き続けてきた姿勢が、この行列そのものを物語っている。 看板は名物の「かき揚げ丼」。丼を覆い尽くす量感だが、狙いは迫力だけではない。衣は細かく砕かれ、ザクッとした歯切れを意識した揚げ上がり。そこに大量の海老が詰め込まれ、噛んだ瞬間に弾くような“ぷりっ”とした食感が前に出る。海老のサイズと量があるからこそ、衣の存在感が負けず、両者が拮抗する。甘めに振ったタレは、揚げの香ばしさと油分を受け止めつつ、白飯への導線を明確にする設計。重さはあるが、味が単調にならないため、食べ進めるテンポは意外と速い。 行列の理由は、特別な仕掛けがあるからじゃない。丼として必要な要素が、毎回同じ水準で揃っているからだ。揚げは香ばしさと歯切れを両立し、海老は量だけでなく食感で記憶に残る。タレは甘さを持って、米を最後まで導く役割に徹している。この安定した完成度が、客を呼び込み、結果として行列を生み続けているのだろう。ご馳走様でした。
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名古屋・清水エリアに店を構える韓国料理店『しみず』。2006年オープン。現在は完全予約制で、簡単に席が取れる状況ではない。料理に向き合う姿勢が、その予約難易度ときれいに重なっている。料理の方向性は明確で、味を強く決めにいかない。その代わり、下処理、火入れ、出汁の積み重ねで成立させるタイプの韓国料理。アク取りを徹底し、素材ごとの役割を整理し、雑味を残さない。結果として、輪郭ははっきりしているのに、食後に重さが残らない構成になっている。 最初が「カンジャンセウ」。海老の甘みが前に出て、醤油はあくまで支える側。塩気で引っ張らず、旨味の持続で食べさせる設計だ。「チャプチェ」は春雨のもちっとした食感と、野菜の火入れが揃い、胡麻の香りが全体をまとめる。 そして「カンジャンケジャン」。この店を語る上で外せない一皿だ。蟹味噌と内子の濃度、醤油のコクの乗せ方が的確で、過剰な主張はないのに印象は深い。さらに忘れられないのが、身と味噌をご飯と混ぜた一杯。蟹の旨味、醤油のコク、ご飯の甘みが一体となり、料理というより必然のアウトプット。この店の韓国料理が、酒の肴で終わらず、きちんと食事として成立していることを象徴する一皿だ。 この日いちばん印象に残ったのが「茹で豚」。きちんと効かせた塩気がまず輪郭を作り、その上で豚の甘みと脂の質がはっきりと伝わってくる。火入れは過不足なく、繊維はほどけ、噛むほどに旨味が広がる。胡麻の香ばしさとねぎの青さが重なり、味は明確なのに後味は軽い。余計なことをしていないからこそ、仕事の精度がそのまま伝わる一皿で、自然と箸が進む。これは間違いなく再訪理由になる。 「牛すじ煮込み」は一転して、辛味がしっかりと前に出る。牛すじのコクと脂に、唐辛子の辛さを真正面から重ね、ぼやけさせない構成。辛さの中に旨味があり、酒を飲ませるための煮込みとして完成している。 日本酒に漬けた「鮟鱇鍋」は、羅臼昆布のだしを土台に、特製のコチュジャン的な調味が味の核を担う。梨、青森にんにく、韓国唐辛子、酒、味醂、白出汁を使ったその調味は、甘み・辛味・旨味のバランスがよく、木の子や白菜の水分と自然に溶け合う。ぷるぷるとした鮟鱇のコラーゲン感が、このスープの中で自然に溶け込み、だしや調味と一体化していく。 そして「キンパ」。具は鮭。派手さはなく、味付けも穏やかで、完全にお母さんのおにぎりレベルの安心感。正直お腹は十分だったが、それでも無理なく食べ切れてしまう。食事の終盤に出てきても、ちゃんと居場所があるのだ。 一皿ごとの完成度も高いが、それ以上に印象に残るのは、最初から最後まで味の流れが途切れないこと。強さで押すのではなく、下処理と火入れ、出汁の精度で積み上げていく構成だから、しっかり食べたという実感が残る。それでも食後に変な疲れが出ないのは、味の整理が行き届いているからだろう。『しみず』は、韓国料理を勢いで消費させる店ではない。料理をきちんと食事として成立させる力がある。予約が難しい理由も、食べ終えたあとには自然と腑に落ちる。ご馳走様でした。
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ミトミえもん
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神泉の路地、渋谷の喧騒から一歩距離を取った場所に佇む『ess.』。店名は、ラテン語で“本質”を意味する「essentia」に由来するもの。レストランとは、本来、心身を回復させる場所である──そんな原点に立ち返り、穏やかな時間と安らぎを提供することを軸に据えたイタリアンだ。コンクリートと木を基調にした空間は、無機質に寄りすぎることなく、静かでモダンな空気感。この街、この距離感、この静けさが、無理なく溶け込んでいる。 その空気と相性がいいのが、サローネグループで研鑽を積んだ山口シェフのキャリアだ。王道のイタリア料理を土台に、素材の扱い方やソースの組み立て、皿全体のバランスを積み上げてきた料理人。その経験値が、この店の「お客様の心地よさに寄り添う」という思想と、過不足なく重なっている。そして特筆すべきは、その技術をコースに限定せず、アラカルトとしても開いている点だ。順番や量を委ねきる必要はなく、旬の食材を使った料理を、食べたい分だけ選べる。その自由度が、この空間に自然なリズムと居心地の良さをもたらしている。 ちなみに今回は初訪問ということで、まずはコース料理を選択。 スタートは「グリーンオリーブのマリネ」。塩味はきちんとありつつ、オイルと温度で全体がまとまった一皿だ。口の中を整えながら、自然とアルコールに入っていく流れを作ってくれる。食事の立ち上がりとして、ちょうどいい位置づけ。 続く「やま幸より本まぐろのタルタルと凝縮トマトのパーネカラサウ」。トロと赤身を二種類使い分け、脂のコクと鉄分の旨味をレイヤーとして重ねる構成。トマトの酸はしっかりと効いており、薄く焼かれた生地のパリパリとした食感が全体を軽やかにまとめる。食感と温度、味の立体感がはっきりしている。 「丸鉄水産より神経〆鮮魚のカルパッチョ 春菊のグラニテとハーブのサラダ」は、紅まどんなの甘さと春菊の青さ、グラニテの冷たさが交差する一皿。春菊をあえてグラニテにすることで、香りは立たせつつ、口当たりは軽く、温度で輪郭を切る設計になっている。アタックは鮮明だが、後味はすっと引き、余韻だけが静かに残る。 温かい皿では「北海道産白子のフリット 檸檬とお米のソース」。軽い衣で包まれた白子はクリーミーさをしっかり残しつつ、重たさは感じさせない。レモンをきちんと効かせることで、白子のコクに輪郭が生まれ、口の中がだらけない。旭の出汁と米のソースが、その酸を受け止め、イタリアンの文脈に和の旨味を自然に重ねている。 パスタは「オシェトラキャビアと白海老の冷製パスタ」。いわゆるカッペリーニではなく、あえて食感を残したパスタを選び、噛むことで白海老の甘さとキャビアの塩味が立ち上がる設計だ。 続く「熟成メークインとブッラータチーズのラヴィオリ 月光百合根とバターソース」は、2年熟成のメークインの甘みが軸。燻製パルミジャーノが香りと余韻を引き締め、穏やかながら記憶に残る一皿に仕上がっている。 続くパスタは「あか牛のボロネーゼ 手打ちタリアテッレ」。あか牛の旨味を前に出したボロネーゼは、脂に寄りすぎず、肉の輪郭がはっきりと伝わる仕上がり。手打ちのタリアテッレはソースを受け止めるだけの幅とコシがあり、一体感はあるが重たくならない。 メインは「熊本県産あか牛のロースト 鈴木農場よりカリフローレとデュカ」。赤身の旨味を素直に引き出す火入れで、余計な演出はなく、肉そのものの輪郭がはっきりと伝わる一皿だ。付け合わせのカリフローレは食感と甘みのコントラストを担い、デュカのスパイス感が味わいに奥行きを加える。 食後は「ミルクアイス」。ミルクのコクと温度、口溶けの設計が丁寧で、コース全体を静かに着地させる役割を果たす。強い甘さや香りを足さず、最後まで“心身を回復させる”という店の思想を崩さない締めくくりだ。 コースを通して感じたのは、料理そのものの完成度はもちろんだが、この内容をアラカルトでも選べるという事実の価値。この技術、このバランス感覚を、食べたいものだけ、食べたい分だけ楽しめる。その選択肢が用意されていること自体が、『ess.』という店の成熟度を示している。ご馳走様でした。
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名古屋で薪窯を構えるピッツェリアが『BURDE』。メニューを開いてまず感じるのは、その数の少なさだ。選択肢を増やすより、出すものを絞る。その潔さが、この店のスタンスを端的に示している。店名は北欧語で「あるべき姿」「本質」を意味するとされるが、それを声高に語ることはない。佇まいも同様で、煉瓦壁と窯を中心に据えた空間は実直で、意識は自然と焼き上がった一枚へ向かう。 生地はナポリピッツァとして正統な佇まい。その中でとりわけ印象に残るのが耳の存在感だ。ぷくりと立ち上がった縁は、最後までしっかりともっちりした食感を保ち、噛むほどに小麦の甘味と香ばしさを返してくる。また、中心に向かって広がる具材を、外側からふわりと囲い込むような輪郭になっており、その立体感自体が一つの見どころになっている。 「マルゲリータ」は、その構成の良さが素直に伝わる一枚。焼き上がりの香ばしさに続き、もちもちとした生地とモッツァレラが一体となり、中央ではトマトの甘味と酸味がじゅくじゅくと広がる。食べ進めるにつれて、縁のもっちり感と小麦の風味が後半を支え、中央と耳で役割が自然と分かれていく。見た目、口当たり、余韻が段階的につながる構成だ。 「マリナーラ」は香りの輪郭がより鮮明。にんにくの立ち上がりは強いが、トマトの旨味とオイルのコクが全体を包み込み、尖った印象にはならない。中央には水分を含んだトマトの存在感があり、縁はそれを受け止めるようにもっちりと応える。添えられたミニトマトが瑞々しい変化を加え、シンプルな一枚に奥行きを与えている。 強く印象に残ったのは、やはり耳の形状だ。外周がぐっと持ち上がり、中央に向かって緩やかに落ちていくそのシルエットは、焼き上がった瞬間に視線を引きつける。食べ進めてもその存在感は失われず、もっちりとした弾力が最後まで口の中に残る。マルゲリータでもマリナーラでも、この縁が一枚全体の印象を決めているのだ。ご馳走様でした。
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中目黒の静かな通りにそっと姿を現す『中目黒 若狭』。その起点は2013年、若狭岳男オーナーが立ち上げた前身「和韓料理 若狭」。韓国料理を軸にしながら、その本質的な旨味や奥行きをどう引き上げるかに挑み続け、ミシュランのビブグルマンにも名を刻んだ一軒だ。あくまで主語は韓国料理。そのアップデートにこそ若狭の流儀であり、移転した今も皿の上に揺るぎなく息づいている。韓国料理の魅力をさらに深く掘り、ひとつ上のステージへ押し上げる、そんな挑戦がここにはある。 コースの火蓋を切る「パンチャン」。韓国の小皿文化を、日本料理の八寸のように彩りよく並べたひと皿だ。「キムチ盛り合わせ」が酸味のリズムを刻み、「あおさと数の子」が海の気配を添え、「雲丹といぶりがっこ」が燻香と甘みで遊ぶ。「烏賊と雲丹の唐辛子味噌」は旨味が重なり、「金時人参の白出汁和え」が静かな余白をつくり、「海老芋」がほっくりと締める。辛・酸・甘・旨という韓国料理の軸を踏まえつつ、味の輪郭は驚くほど穏やか。出汁の気配が全体を包み込み、伝統をそっと押し上げる“アップデート型の韓国料理”の入口になっている。 「ポッサムキムチ」は、いわゆるポッサムとはまったく別物。茹で豚の料理ではなく、若狭がこの器に描いた再創造の一皿だ。白菜キムチを開くと、カンパチと鰆、そこへラ・フランスの甘みが重なり、松の実が香ばしく跳ねる。魚と果物の組み合わせがキムチの酸味と交差し、古典の名前を借りつつ、構成は完全にアップデートされたもの。 「ミノの塩ユッケ」と「ヒレのユッケ」は、同じ皿の上で異なる表情を見せる存在。ミノはコリッとした歯ごたえに自家製塩だれのキレが映え、ヒレ肉のユッケはしっとりとした旨味を自然薯のとろみがやさしく包む。質感のコントラストが心地よく、噛むほどにそれぞれの旨味が立ち上がる構成。 「カンジャンセウ」は、海老を甘醤油に漬けた韓国の定番料理。その枠組みをそのまま借りながら、海老の王様である伊勢海老に置き換えるという大胆なアップデートを施す。深漬けで重さを出す方向ではなく、短く漬け込み、身の透明感と甘さをそのまま残すアプローチ。スダチの香りがふっと広がり、伊勢海老の上質な甘みがすっと立ち上がる。伝統を踏まえながら、素材を変えるだけで料理の格が一段上がる。その発想こそが若狭らしい。 中盤の山場、「セイコ蟹出汁のチャプチェ」。セイコ蟹の殻から引いた濃密な出汁を春雨に吸わせ、そこへカラスミ、ほうれん草、バターを合わせる。韓国のチャプチェの文脈でありながら、春雨が蟹の旨味とコクを運ぶソースの器として働く構成は見事。味の奥行きの作り方、食材の扱い方、どれも伝統を土台にしながら、一段階深く踏み込んでいる。 「ナッコプセ(タコ・海老・ホルモンの辛鍋)」は、赤く力強い見た目に反して、後味は軽やか。タコと海老の殻からの旨味、ホルモンのコク、唐辛子の辛味が三位一体となり、辛さの背後に旨味がしっかりと残る。辛味で引っ張る鍋ではなく、出汁で食べさせる鍋。若狭のアップデートは、こうした方向にも表れる。 肉料理の「プルコギ」は、コースの山場を鮮烈に飾る圧巻のメインディッシュ。主役にはハラミとヒレ。肉・野菜・タレを個別に仕込み、仕上げの火入れで一気に力強くまとめ上げるアプローチだ。もやしの軽さを抱え込んだまま、甘辛ダレの濃密な旨味がぐっと迫り、そこへ肉のコクが重なる。韓国料理の枠に収まりながら、存在感はまるでフレンチのメイン。強烈で、華やかで、一皿としての推進力がとにかく高い 締めには「冷麺」と「キンパ」。乳白色の冷麺は、旨味がとろりと広がりながら、後味だけはすっと澄んでいく。韓国冷麺の清涼感に、旨味の深みを重ねたような一杯。続く「キンパ」は、卵、ナムル、野菜、牛肉がそれぞれ役割を持ち、噛むほどに味が重なる。コースの締めにふさわしい一切れ。 甘味は「緑茶プリン」。韓国料理の濃密な余韻をそっと受け止め、静かに締めくくる締めの一品だ。口に含めば、緑茶の香りがまっすぐに立ち上がり、甘さは必要最低限。その控えめさがむしろ心地よく、強烈なコースを歩いてきた舌をふっと落ち着かせてくれる。 『中目黒 若狭』は、韓国料理を土台にしながら、その旨味や構成を一段引き上げるアップデート型の韓国料理店。伝統の輪郭を崩すことなく、扱う食材、盛りつけ、味の組み立てを変えるだけで、韓国料理がここまで表情を変えるのかと驚かされる。重ねた技術よりも、積み重ねてきた経験が皿の奥に静かに滲むような料理たち。強さと品の両方を抱えたコースは、記憶にはしっかり残る。韓国料理の新しい可能性を見たい夜には、この扉を叩くべきだ。ご馳走様でした。
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