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『香代子の憂鬱』
第一話
「白いワイシャツ」
また週末出張だって。
私が折り目まで几帳面にアイロンをかけたワイシャツを、夫はそそくさと鞄に詰め込んでいる。
社内結婚だったから、昔はあの仕事熱心なところが好きだった。
遅くまで頑張っている背中を見るたびに、誇らしい気持ちにもなった。
でも今は違う。
その真っ白なシャツを、今夜は誰が脱がせるんだろう。
そんなことばかり考えてしまう。
鞄が開くたびに、ふわっと甘い香水の匂いがする。
残業も、出張も、嘘だってとっくに気づいているのに。
それでも、言えない。
問い詰めて、泣いて、怒って、泥沼になるくらいなら、私が全部飲み込めばいい。
そう思ってしまう。
A型の嫌な完璧主義が、こんなところで顔を出す。
何も知らない良き妻のふりくらい、私はちゃんとできてしまう。
ほんと、可愛くない。
夫に女がいるなんて、本当なら許せないはずなのに。
心の奥に分厚い蓋をして、見ないふりをしている。
全部、優香のため。
あの子が高校を卒業して、自分の足で歩けるようになるまでは、絶対に波風を立てない。
この家を守る、完璧なお母さんでいなきゃ。
私自身の女としての人生なんて、もうとっくの昔に捨てたんだから。
夫が妙に軽い足取りで出ていったあとのリビングは、静かすぎる。
チリひとつなく片付いた一軒家。
ここはもう、私が「お母さん」という業務をこなすためだけの作業場みたいだ。
昔はここで、二人で晩酌もしたのにな。
冷めた紅茶をすすりながら、一人でぽつんと座っていると、この家のどこにも「女としての私」なんて残っていないんだなって思う。
悲しい、というより。
ただ、ひたすらに空っぽ。
#香代子の憂鬱

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